Leister Expedition Go North 2022グリーンランド北部遠征

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ライスターインサイト2022年9月26日

2021年7月、Leister Around North Greenland遠征にて、デンマークとスイスの研究者たちが世界最北端の島と思われる島を発見しました。その後の2022年8月、Leister Expedition Go Northでは、別の研究チームがこの島がここに留まった氷山であることを発見しました。

著者: ライスター・スイス、コーポレート・コミュニケーション・マネージャー、ジルケ・ラントヴィンク

画像と動画:© Christiane Leister

2021年夏、スイスとデンマークの研究チームが、ライスター財団により主導・資金提供されたLeister Around North Greenland探検に出発し、科学プロジェクトを実施する目的で、1978年に発見され2008年以降目撃されていないオーダーク島を訪れました。

研究チームがクリスティアーネ・ライスター氏とともに行ったこの調査では、オーダーク島は発見できなかったものの、それまで海図に記載されていなかった30×60メートルほどの島を発見できました。この新しい島は、グリーンランド語で「最北端の島」を意味する「ケケルタク・アヴァンナレグ」と命名されました。地球上で新しい最北端の島が発見されたというニュースは、その後またたく間に世界中に広がりました。

新しい島は、それまで北極に最も近いとされていたオーダーク小島の北約800mに位置し、グリーンランド国境線の最北端となりました。

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2021年7月、新たに発見された最北端の島「ケケルタク・アヴァンナレグ」にて、クリスティアーネ・ライスター氏。手前に大きな岩があり、その下には遠征時データの入ったアルミ製ボックスが置かれています。クリスティアーネ・ライスターは2022年8月の遠征時にこのボックスを再発見し、新たに積んだケルンの下に移動させました。

「世界最北端の島」は実はそこに座礁した氷山だった

しかし、2022年8月に行われた次の探検隊Leister Go North 2022 のスイスとデンマークの学際的研究チームによる新しい発見により、最北端の島とされる「ケケルタク・アヴァンナレグ」はモレーン物質を含む座礁した氷山であることが判明しました。また、1978年以降に発見され、数年後にも特定できなかったオーダークなどの小島、いわゆる「幽霊島」は、実は氷山でした。グリーンランド本土の氷河から分かれたその氷山は、砂利や岩に覆われ、グリーンランド北部の北極海の底に一時的に立ち往生しました。この探検に参加していたデンマークの科学者レネ・フォルスベリ教授(デンマーク国立宇宙センター、デンマーク工科大学)によると、このような氷山が将来的に消滅する可能性は高いとのことです。ただ、移動するのに十分なほど溶けた正確な時期は不明のままであるとのことでした。科学者たちは、これらの氷山の起源はモリス・ジェサップ岬の西にある氷河にあり、将来は、グリーンランド沿岸の北側に「氷山島」が発見される可能性があると考えています。

モリス・ジェサップ岬の西約50kmにあるケープ・クリスチャン4世の氷河。この氷河と近くにある他の氷河は、座礁した「氷山の島々」の起源である可能性があります。

明かされる幽霊島の謎

こうして、過去に報告されたいわゆる「ゴーストアイランド」に関する数十年にわたる謎は、新しい科学的発見によって明らかになりました。Leister Expedition Go North 2022の調査では、モリス・ジェサップ岬の北にある北極海の氷に約30個の穴を掘り、音響探査機を用いて海深を測定するという作業を行いました。さらに、氷の厚さを測定したところ2~3メートルでした。それに加えて、海底の地図を作成するため、GPSとライダーによる詳細にわたる計測も実施しました。レネ・フォルスベリ氏によると、2021年と2022年のライスター探検隊が発見した島は、すべての調査で水深25~45メートルにあることが確認されたとのことです。これらの島は海底とはつながっていないため、結果的に座礁した氷山、いわゆる「氷山島」です。

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写真は、氷に穴をあけるレネ・フォルスベリ氏、マーティン・ニッセン氏(デンマークのデータ供給・効率化庁)、ヘンリック・ラッセン氏(遠征隊のロジスティック責任者)。レネ・フォルスベリが音響測深機で水深を、マーティン・ニッセンはプローブで定着氷の厚さを測定しています。

新しい島の発見

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クリスティアーネ・ライスター氏、2022年8月に新たに発見された島にて。手前にはケルンが積まれており、その下には遠征時のデータを収納したアルミ製ボックスがあります。背景には、定着氷とグリーンランド北部沿岸および山脈と氷河が見えます。

定着氷での作業中に Leister Expedition Go North 2022探検隊が発見したのは、カフェクルベン島の東にあるもう1つの小さな「氷山島」でした。その島は50×40メートルほどの広がりで、完全に岩石物質で覆われています。他のすべての「幽霊の島」と同様、この「氷山の島」もいつか消滅するでしょう。2つの「ライスター諸島2021および2022」は、現在、モリス・ジェサップ岬の北の北極海で遠征隊員によって目撃された唯一の島です。これらが果たして消滅するのか、それがいつになるのか、または他の「氷山島」が発見されるのかどうかは予想がつきません。

ライスター島に上陸した科学者たち

これらの「氷山島」の起源をさらに科学的に解明する目的で、2021年および2022年に発見された「ライスター島」を科学者たちが訪れました。彼らは、バクテリアの検査のためにさまざまな土壌サンプルを、地質学的測定のために岩石物質を、アイソトープ分析のための水のサンプルを採取しました。

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2021年に発見され「ケケルタク・アヴァンナレグ」と名付けられた島での、科学者のアンダース・プリメ教授(コペンハーゲン大学)、トビアス・シュナイダー博士(コロンビア気候大学ニューヨーク校)、デニス・シュラッター博士(スイスの地質学者)とクリスティアーネ・ライスター氏。手前のジオマークと、2021年と2022年の遠征の日付が入った2つのアルミ製ボックス。これらはその後、新しく積まれたケルンの下に堆積したものです。

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「ライスター島2021」で細菌の調査のためにさまざまな土壌サンプルを採取しているアンダース・プリメ。採取されたサンプルは後日、研究所で起源や特性が調べられます。

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デニス・シュラッター氏は、「ライスター島2021」で、カールスルーエ大学の研究所でその後の地質調査のために、純分な量のサンプルを得ることができる大きな岩石を見つけたことを喜んでいます。

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最近発見された「ライスター島2022」で、アイソトープ分析用の水サンプルを採取するクリスティアーネ・ライスター氏とトビアス・シュナイダー氏。

世界最北の島としてグリーンランドの新地図に掲載されたカフェクルベン島

これはカフェクルベン島を空から撮影したものです。定着氷と海氷の間の距離(画像上部)に、開いた水帯が青い縞として見えます。

オーダークが座礁した氷山であることが新たな発見によって判明した後、カフェクルベン島としても知られるイヌイットのケケタート島は、再び世界最北端の島であり、グリーンランドの新しい国境であると考えられています。

2021年と2022年に発見された「ライスター島」を含む座礁した氷山は、グリーンランドの将来の地図には表示されなくなります。謎に包まれた「氷山島」は、正式に地図化されない新しいカテゴリーとして研究者によって説明されます。ただし、さらなる科学的研究のために、「氷山島」は発見者にちなんで名付けられ、位置データ、発見日、最後の可視性とともに文書化されます。

探検ルート

Leister Expedition Go North 2022は、2022年8月3日、やや遅れて出発しました。探検隊はスピッツベルゲン島にある小さな鉱山の町ロングイェールビーンから、ステーションノースへ飛行機で向かいました。これは、北東グリーンランド国立公園内の軍事および科学的な目的で運用されているグリーンランドの基地です。短時間の途中降機を経て、探検隊はモリス・ジェサップ岬に向かいました。そこでは、キャンプ用品、食料品、研究調査用の設備や機器類、ヘリコプター用の燃料など、2.5トンの貨物が遠征メンバーの到着を待っていました。その後テントがすべて設営され、キッチンも整えられ、水は近くの川から調達しました。最初の調査に向けて機器類も準備が整いました。そしてついに、最初の食事がふるまわれました。真夜中の太陽の下、野外のキッチンで調理した食事です。

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モリス・ジェサップ岬に到着した探検隊員を待ち受けていたのは、ベースキャンプ設営のための大量の作業でした。

ベースキャンプから、科学者の目的地は日帰り旅行として、または長期滞在の場合はフライキャンプとして編成されました。2022年8月13日、ベースキャンプは再び解体されました。2つのグループに分かれた遠征隊員は、グリーンランド北部と北西部の沿岸で途中降機し、Leister Expedition Go North 2022 の最終目的地であるカーナークまで飛行機で移動しました。

困難を伴う探検

このような遠征を組織する努力は計り知れず、多くの準備時間が必要です。そしてすべてが計画通りに進むことはめったにありません。クリスティアーネ・ライスター氏の報告によると、Leister Expedition Go North 2022計画のスタートは、正式な要件と悪天候によるヘリコプターの到着の遅れのために遅れました。さらに、遠征の科学リーダーが遠征開始直前に健康診断のために脱落したため、クリスチャン・ライスターが代わりにグリーンランドでの科学プロジェクトの調整を引き継ぎました。「これまでのグリーンランド遠征の経験と、ETH理事会のメンバーとしての科学への洞察に基づいて、すべての科学者が希望どおりにサンプリングと測定を実行できるように、プロジェクトと優先順位を調整できました。」

この写真は、モリス・ジェサップ岬に設営した Leister Expedition Go North 2022のベースキャンプです。地球上で最も北に位置するこの大陸の末端で、探検隊員たちは2022年8月の11日間を、気温が零度まで下がる環境で過ごしました。背景には、わずか705kmしか離れていない北極点の方向に、北極海が見えます。

探検隊員、ベースキャンプ、現地キャンプ、移動中の科学者たちの間の通信には、Garmin社のinReach衛星通信が利用されました。これらのデバイスは、ルートと経由点の計画と文書化にも使用されました。

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グリーンランド北部を探検中のクリスティアーネ・ライスターの経由点。北極海の旗は、「ライスター島」とカフェクルベンでヘリコプターの定着氷上への着陸点を示しています。

スイスの氷河学者コンラッド・シュテッフェン博士にちなんで名付けられた氷河

グリーンランドの氷河は、今は故人である3人の氷河学者、ニールス・リー、アンカー・ワイディック、スイス連邦森林・雪氷・景観研究所(WSL)の元所長コンラッド・シュテッフェン博士にちなんで名づけられたものです。グリーンランドの地図に、グリーンランド語由来でない地名が付けられたのは、これが初めてのことでした。この3人の氷河学者は、グリーンランドの社会と科学に多大な貢献をしました。コンラッド・シュテッフェン博士は、2020年、イルリサット近郊の氷床でフィールド調査中に悲劇的な事故で亡くなりました。(情報元:WSL)

クリスティアーネ・ライスターは2022年8月の遠征中、レネ・フォルスベリとともに「セルメック・コンラッド・シュテッフェン」を訪れ、コンラッド・シュテッフェンを偲んで氷河の端にケルンを建てたいと考えていました。しかし、風の状態が厳しかったため上陸できませんでした。

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写真は、コンラッド・シュテッフェンにちなんで名付けられた氷河「セルメック・コンラッド・シュテッフェン」です。写真は、Leister Expedition Go North 2022の最終日2022年8月13日に、クリスティアーネ・ライスターがヘリコプターから撮影。

クリスティアーネ・ライスターは、ETH理事会での活動や、2018年の遠征でグリーンランド氷床上のスイスキャンプに滞在した経験を通して、コンラッド・シュテッフェンと個人的につながりがあり、彼を高く評価していました。

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スイスキャンプ前で撮影されたコンラッド・シュテッフェンとクリスティアーネ・ライスターの写真。これは2018年5月8日、クリスティアーネ・ライスターが遠征チームとともに研究拠点を訪問したときのものです。

グリーンランド北部に生息する花、植物、茸類

グリーンランドについて考えると、私たちのほとんどはおそらく主に雪と氷を思い浮かべます。意外にも、グリーンランドには苔や地衣類、色彩豊かな花、丈夫な植物、様々な茸類が生育しています。Leister Expedition Go North 2022中に、クリスティアーネ・ライスターはさまざまな花や植物、きのこの写真を撮りました。以下の写真をご覧ください。

グリーンランド北部に生息する動物

グリーンランドには、ホッキョクグマ、ジャコウウシ、カリブー、トナカイ、ホッキョクギツネ、ユキウサギ、ユキライチョウ、シロフクロウ、レミング、ケワタガモ、その他さまざまな鳥類などの動物が生息しており、そして稀にホッキョクオオカミなども確認されます。さらに、グリーンランドには昆虫やチョウもいます。

Leister Expedition Go North 2022では、ジャコウウシ、ホッキョクギツネ、ホッキョクグマ、狩りをするシロフクロウ、レミング、そして数種類の鳥類が目撃されました。湿地では、遠征参加者はこれらの動物の足跡も確認できました。

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まだ白い冬毛のユキウサギがカモフラージュすることなく石だらけの地面を移動しています。夏には灰茶系の夏毛に生え変わり、カモフラージュできます。

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写真は、アークティック・パールバタフライという蝶です。これはグリーンランドで最も一般的な蝶で、その他には4種類の蝶が見られます。北極圏とグリーンランド北東部にのみ生息する北極パールフチョーモンに酷似しています。

次回の遠征と新しい書籍の企画も進行中

グリーンランドには未知のことが今でも多くあります。そのため、ライスター財団はもう次の遠征、Leister Go East 2023を企画しており、2023年夏に実施の予定です。今回は、グリーンランド、デンマーク、スイスの砕氷船と科学者たちが、グリーンランド東部のアクセスが困難な地域に向かいます。

なお、書籍「Greenland Expedition 2018」の続編として、2022年および2023年のライスター遠征を報告する別の書籍も予定しています。私たちと科学者にとって、新しい発見を知らせてみんなと共有することは重要であると考えるためです。この本の出版は前回と同じくライスター財団が行い、無料で提供します。準備が整ったらブログにてお知らせします。

ライスター財団に関して

ライスター財団を通じて、私たちは教育や科学、芸術や文化に力を注いでいます。クリスティアーネ・ライスターは、長年グリーンランドに魅了されてきました。「アクセスが困難な場所での科学者の貴重な役割を支援するために、ライスター財団を通じてグリーンランドで科学研究プロジェクトを立ち上げ、資金を提供することは私にとっても重要です。」

Leister Expedition Go North 2022の印象

写真ギャラリーでは、北グリーンランドの魅力的な風景の印象を得られます。

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